司法書士・行政書士
今 野 智 喜
内容証明・裁判手続・相続登記
民事裁判手続
「裁判」というと刑事事件の裁判を連想してしまうかもしれませんが、「知人にお金を貸したのだけど、返してくれない」「アパートの滞納家賃を払ってもらいたい」というように、お金を返して欲しいということはあると思います。普通に請求したら払ってくれれば良いのですが、そうでないときは裁判所を使うことがあります。こういった個人間の問題を解決するのが、民事裁判の手続きになります。わかりやすいようにお金を返してもらいたい人の視点で書いていきたいと思います。
普通の請求書で反応がないとすると、次の手続きが考えられます。内容証明郵便は裁判所の手続きではありませんが、お金を請求するときに使うことも多いので、こちらでも紹介します。
内容証明郵便・支払督促・民事調停・少額訴訟・通常訴訟 また、差押手続も少し載せます。
※ ただし、養育費など家庭裁判所に関係する場合は、家庭裁判所の手続きになる場合もあります
※ なお、会社(法人)からの金銭請求の場合、契約関係が複雑なこともありますので(簡単な場合もあるとは思いますが)、弁護士の先生に一度相談されることをお勧めします。
※ また、損害賠償請求も金額に多い少ないに関係なく複雑な場合も多いので、弁護士の先生に一度相談することをお勧めします。
ここではわかりやすいように請求する側(原告・債権者・申立人といった名称が使われます)からの視点で説明していきますが、請求されてしまった側(被告・相手方といった名称が使われます)からのご相談ももちろんお受けしております。特に支払督促や裁判(少額訴訟、通常訴訟)は、訴えられたまま反論しないと欠席判決で負けることがありますので、裁判所から手紙が来たらすぐに専門家にご相談ください。
内容証明郵便
内容証明郵便というと書いた内容が真実であることを証明してくれると思いがちですが、そういったものではありません。何月何日にこういった内容の手紙を出しました。ということを日本郵便が証明してくれるだけで内容そのものは真実かどうかを証明してくれるわけではありません
ただし、「こっちは本気で請求しているぞ!」というの相手に教えることで、相手が払ってくる可能性もありますし、のちのち「請求されてない」といった言い逃れはできなくなります。
家賃請求の場合、「未払いの家賃を請求したけど払わないので、契約解除します。明け渡して欲しい(明渡請求訴訟)。」というような流れになるので、内容証明できちんと請求していた方が良いでしょう。
支払督促・異議申立
支払督促とは、「金銭その他の代替物または有価証券の一定数量の給付を目的とする請求」については利用できる手続きです。ほぼ100%金銭請求のために使われております。
申立人(債権者)の提出する申立書の書面審査だけで督促が出るのが特徴です。裁判所の法廷で何か話をする必要もない手続きです。
しかし、債務者からの申し立てだけで簡単に通常の訴訟に移行するという側面も持っています。裁判所から債務者に送られる書類の中に異議申立書が入っているので、比較的簡単に異議申立ができてしまいます。
また、訴えられた場合の注意ですが、申立人(債権者)が金融会社の場合は注意してください。消滅時効になっている債権であっても、債務者(訴えられた側)が「時効を使います(消滅時効の援用といいます)」と言うまでは、法律上請求しても別に問題はありません。ですから、時効になってる債権でも支払督促を申し立ててくることがあります。この場合は、分割和解の申込をしてしまうと、債務を認めたことになってしまい、時効の援用ができなくなります。支払督促を金融会社に出された場合には、すぐに専門家に相談してください。
また、申立をする裁判所は相手方の住所地の簡易裁判所になり、異議があるとその簡易裁判所かその簡易裁判所を管轄する地方裁判所に移行しますので、相手方が遠隔地の場合、申立人に不利になる場合もあります。相手方の状況や債権の内容によっては最初から訴訟をした方が良い場合もあります(金銭請求の訴訟の場合は、債権者の住所地で提訴できる)。よく考えて手続きを選ばなければなりません。
民事調停
民事調停とは、裁判所を使った「示談」と考えていただければ、わかりやすいと思います。
支払督促と違い、その請求について何か制限があることはありませんので、お金の請求だけでなく、建物の明け渡しなどにも使えます。原則として、相手方の住所地の簡易裁判所で行われますので、相手方が遠隔地の場合にはこの手続きを使うべきか否か考える必要があるでしょう。
話し合いなので、相手方が来ないと成立しませんが、相手が裁判所に来るような感じの人物であれば、民事調停を利用するのも良いと思います。
少額訴訟
少額訴訟は通常訴訟とは次のような違いがあります。
(1)「60万円以下の金銭請求」だけしか出来ません。「アパート明け渡せ」のような請求はできません。
(2)被告が「通常訴訟にしてください」と裁判所に言うと、特に理由なく通常訴訟に移行します。また、裁判所の判断(金額が少なくても事案が複雑な場合など少額訴訟に向かない場合)で通常訴訟に移行する場合もあります。
(3)基本的に1回の審理で終了します。最初の期日までに原告も被告も証拠をすべて出すことになります。証人の場合は期日当日に裁判所に来てもらっていないといけません。
(4)反訴ができません。通常訴訟の場合は、請求された被告がその請求された事件に関連することであれば、原告に対してその手続の中で訴えることができますが、少額訴訟ではできません。
(5)「分割払い判決」や「何ヶ月支払を猶予する」といった判決が出ることがあります。請求した側からすると予想外に分割払い判決が出るリスクもあります(判決言い渡し日から3年が最長です)。
(6)控訴ができません。簡易裁判所の通常訴訟の判決に不服はある場合、地方裁判所に「控訴」することができますが、少額訴訟には控訴がありません。「異議申立」を簡易裁判所に申し出ることができます。この場合、少額訴訟をした同じ簡易裁判所で通常の裁判になりますが、少額訴訟でやった手続きを無にするわけではなく「(少額訴訟の)口頭弁論の終結前の程度に復し、通常の手続によりその審理及び裁判を再開する」ということになっていますので、少額訴訟を引き継いで通常訴訟の手続きで進めるというイメージです。この異議審の判決でも控訴が出来ません。特殊な場合を除き、この異議審で終わりになります。
(7)被告が行方不明の場合は使えません(公示送達という行方不明の相手方を相手にするときの手続きが使えません)
(8)少額訴訟の判決等であれば、給料の差押えも簡易裁判所でできる(少額訴訟債権執行)。通常、差押えは地方裁判所に申し立てますが、少額訴訟の判決で債権(給料など)を差し押さえるのであれば、簡易裁判所に申し立てできます。
上記のような特徴(良い点もあれば制約もある)ありますので、請求額が60万円以下であっても、事件が複雑であれば(証拠が少ない、請求金額がはっきりしない)、通常訴訟の方が良いでしょう。逆に借用書や契約書があるお金の貸し借りや滞納家賃請求、敷金請求など「誰が見ても請求金額が決まっている請求」には向いているでしょう(ただし、家の明け渡し請求はできません)。
裁判所備え付けの雛形などでも対応できると思いますが、手違いがあれば、勝てる裁判も負けてしまいますので、提訴する前に専門家に相談した方が良いでしょう。
通常訴訟
いわゆる裁判と言われるものです。金額に関係なく訴えることができます。当然ですが、金銭請求以外の請求(建物明渡請求など)にも、利用できます。
ですから、60万円以下の場合は少額訴訟を使うか、普通の訴訟を使うか考える必要があります。
60万円を越える金銭の請求を訴訟で行うとなれば、通常訴訟しかありません。訴えるには訴状に最低限必ず書かなければならないことがあり、それがないと裁判になったあと苦労するということも考えられます。請求金額や難易度(証拠の有無)にもよりますが、一度専門家に相談してからの方が提訴するかどうか考えた方がよいでしょう。
訴える金額(訴額)によって、簡易裁判所か地方裁判所かどちらかに提訴することになります。貸したお金を返して欲しいという請求であれば、請求額(残元金)=訴額になります。が、事件によっていろいろ計算して訴額を出す場合もあります。
金額に関係なく「自分で裁判したい」という場合には、裁判に必要な書類(訴状、答弁書、準備書面など)の作成を通じて裁判手続のお手伝いをします(司法書士の裁判所の書類作成業務には金額や内容の制限はありません)。ただし、「自分で裁判したい」と思っていても、客観的に見て「弁護士を頼んだ方が良い」ということもありますので、その場合は弁護士に依頼することもご検討されるようにお勧めしております。
差押手続
裁判手続き「300万円支払え」といった判決等が出ても、実際には支払ってくれない場合、「差押え」をしなければなりません。これはまた別の手続きになります。
【債権差押】
相手方が会社員であれば、確実なのは「給料の差押え」です。原則として、毎月の給料の4分の1を押さえることが出来ます。相手が会社を辞めなければ、確実に押さえられるものです。このほかには「銀行口座の差押え」や相手が会社だったり自営業者だったりすれば「売買代金」や「請負代金」の差押などが債権差押の対象となります。実際は、売買代金や請負代金を差し押さえるのは難しいと思います。一般的には地方裁判所の管轄ですが、少額訴訟の判決に基づく債権差押の場合は簡易裁判所が管轄になります。
なお、少額訴訟の判決に基づく債権差押については、認定司法書士は代理人になれますが、それ以外の差押については差し押さえる額が140万円以下でも代理人にはなれませんが、書類作成を承ることはできます。また、すでに確定した権利の実行なので、相手方が争ってくることはほとんどないので、書類作成でも十分に対応できる手続きと考えております。
【不動産差押】
この手続を選択する場合は、まず、請求債権額(判決等で認められた金額)が、それなりの金額でないと意味がありません。 というのは、「初期費用」がかなり必要なのです。専門家(弁護士や司法書士)の費用も債権執行より高いでしょうし(手間が多いのです)、裁判所の費用もかかるのです。印紙や切手のほかに、申し立てた後に「予納金」というのを納めます。この予納金が裁判所によって違いますが、40~50万円は最低かかる感じです。このお金は不動産の価格を鑑定するために費用などに充てられます。 この費用は不動産が売れた後、売却代金からもらえることになりますが、それでも一気に40万円以上現金で支払わないといけないのですから、コストパフォーマンスは考えないといけません。 また、抵当権がついていれば、執行しても抵当権者に配当されて終わりということもありますので準備が重要です。そもそも「その不動産が売れるのか?」ということも考える必要があります。地方裁判所の管轄になります。
この2つの他に、自動車の差押えや動産の差押えなどもあります。